バランスドアーマチュア型イヤホンの周波数特性って大体どんな感じ?
(2010/8/28過去LOGの内容を適当に編集・追記して作成)


「ん〜?なんだかどのBA型のカナルイヤホンのグラフも、高域がいつもストンと落ちているんだけと何故だい?
・・・というような疑問を、持たれた事はないでしょうか?

そんな疑問をなんとなく考えてみるページでございます。


【グラフ1】色々なBA型イヤホンの周波数特性



さていきなりですが、この答えは、以下だと思います。(弱気)

(A)コンデンサ型マイクロフォンは振動板の変位を電圧値に変換している装置である。
(B)カナル型イヤホンの振動板(というか、ダイナミック型やBA型など、バネ〜ダンパー〜質量モデルで近似できるもの全て)は、
  基本的には周波数に応じて下図の【グラフ2】のような変位をする。具体的には最低共振周波数(fs)以上で-12dB/octの割合で変位が少なくなっていく。
(C)密閉されたカプラ内の空間(外耳道に相当)では、マイクロホンの振動板は、イヤホンの振動板の変位に比例して動かされる。
  (ここがラウドスピーカと違うところですね。ラウドスピーカーであれば放射インピーダンスが適用されましょう。)
(D)上記(A)〜(C)により、基本的には、fs(イヤホンでは通常2kHz〜5kHzくらいか)以上で-12dB/octの割合で音圧が低下していくことになる。
  (実際には、10kHz以上の高域では特に、カプラ内での共鳴によるピークが多数発生します。
   このピークの状況はここの信州大学の実験のとおり(Fig.5参照)個人によって全然違うことが予想されます。)


・・・ってことかと。


※【注意】ダイナミック型のカナルイヤホンはまた話が別になります。
 ダイナミック型は振動板が柔らかいため、一般的には完全に密閉させずにハウジングにリーク穴があけてあったりします。
 (空気を逃がさないと振動板が空気の圧力に負けて正常に振動できなくなってしまう)
 よって、
ダイナミック型は一般的には密閉度がBA型よりも低く、fs以上で-12dB/octにはなっておらず、
 むしろラウドスピーカーのようにfs以下で音圧がダラ下がりになる傾向となっているのでありましょう。


【グラフ2】周波数に応じた振動板の変位(俺Excel計算値)




【グラフ3】ER-4Pのインピーダンス

ご覧のとおり、ER-4Pの最低共振周波数(fs)はおおよそ2.3kHzであります。
(難しく言えば、fs以下の周波数では「弾性制御領域」、fs以上は「慣性制御領域」と言って、振動に支配的な要因が機械的なバネの力から質量に変わっている。)
ゆえに、ER-4Pの周波数応答は単純なカプラーの中では【グラフ1】のように、
基本的なカナルタイプのイヤホンの周波数特性の傾向としては、
「fs(ER-4Pなら2.3kHz)以上で、-12dB/octの割合で音圧が低下している。」ってのはまあ仕方ない(?)ことなんですわな。
(本格的なカプラーでは、この基本特性に加えて、如何に人間の外耳道「らしく」高域の共鳴を発生させるか?っていうスパイスを効かせているわけですわ。)

これがER-4SやらER-4Bとなると、ドライバーに抵抗やコンデンサを加えて、電気的に高域を増幅させているわけです。

【グラフ4】密閉型イヤホン(特にBA型)の周波数特性の傾向
※イヤチップはトリプルフランジを使用

BA型カナルイヤホンの音圧−周波数特性って、結局のところ・・・
【グラフ2】の振動板の変位のグラフを基本として、低域での空気漏れや、高域での共鳴などの効果が加わったものと見なせる。
・・・ということがお分かりになろうかと思います。
実はコレ、教科書にイヤホンのモデルとして良く図示されているモデルそのものなんですけどね。
丸写しのようなものですわ。ちゃんちゃん♪

まとめると、BA型イヤホンの大まかな特徴は以下のようになりましょう。

BA型イヤホンの大まかな周波数特性の特徴:

(1)低域はフラットな音圧になるのが普通(密閉度が完全な場合)

(2)共振周波数での音圧のピークは振動系のQ値に依存

(3)高域は-12dB/octでダラ下がりの基本的な音圧特性。
  これに加えてチューブ(外耳道)内での閉管共鳴や振動板の分割振動によるピーク/ディップの効果が加わる
  なお、ピーク/ディップの状況は、個人の外耳道の幾何学的形状や表面の状態によってシビアに変化してしまう。
(4)
「そんじゃあ共振周波数fsを20kHzとか高く取れれば解決じゃん?」という点については、
  
ごもっともですが、それが簡単には出来ない理由があるものと思われ。(振動系を軽く出来ないとかなんとか)


・・・ということで
各自、その筋の教科書にてご確認頂ければ幸いでございます(コロナ社の音響関係のやつとかね)。


以上!


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【補足】8kHz以上で発生するピーク問題につきまして

カナル型イヤホンの測定結果(F特)を見ると、同じイヤホンを測定しているのに
どれもこれも8kHzあたりから上の高域の応答が特に違っています。

じゃあ、なんで8kHzあたりから食い違うのさ?えっ!?

・・・という疑問につきましては、
事態を非常に単純化してみてみますと、理由は単純でございます。


単純化のために、測定時の「イヤホンの先端と、マイクの振動板の間」を、「単なる両端を閉じられたチューブ」としてみますと、こうなります。【図1】

中学生の理科でやりましたよね?

【図1】両端閉管で近似した場合の第一共振


で、この両端閉管の長さL(mm)を変化させてみると、以下の【グラフ1】のように共振周波数が変わります。

【グラフ1】両端閉管の場合と、片側閉管の場合の、管の長さと第一共振の周波数の関係
(音速=340m/sとしてExcelで適当に作りました。本当は温度によって補正すべきですかね)

※ただし、イヤホンやマイクロホンの先端は実際には平坦ではないので、
 実際には共振はぼやけたように周波数が広がるものと思います。

 (ちなみに、青線は片側閉管でイヤホンをしてない時に相当。人間の耳が大体3kHzくらいで共鳴することが分かりますよね。)
※管内径は管の長さより十小さいものと見なせる、という前提条件もありますね。


さて、今は両端閉管の場合を見ていますから
「赤」の線を見てみますと、
8kHzあたりというのは、大体21mmくらいの閉じた管の長さでの共鳴に相当します。

人間の外耳道の長さは25〜30mmですから、外耳道の入り口から4mm〜9mmくらいに、
イヤホンの先端があるような状況と概ね一致するはずでございます。(先端が平らだとした場合ですけどね)

もっと高い周波数、たとえば10kHzあたりに第一共振がある場合は、グラフからL=17mmですので、
外耳道の入り口から8mm〜13mmくらいと深めにイヤチップを入れているような状況と概ね一致するはずでごわす。

以上から、 カナル型イヤホンの8kHzあたりの高域のピークは・・・
 ・外耳道へどのくらい差し込むか?によってピークの発生する位置は数kHz変わる。
 ・具体的には、5mm変わると概ね2kHz程変わってしまう。
といったことが分かります。

BA型のイヤホンでは、多くの機種について、5kHz以上の周波数応答を外耳道内の共鳴に頼っているはずですから、
8kHzあたりの第一の共鳴の周波数は、かなり重要なポイントであると思います。
(測定においては、ピークが高域に寄り過ぎると、5kH〜10kHzあたりの音圧がグラフ上で貧弱に見えてしまう。)

にもかかわらず、このように容易にピークの位置が変わってしまうわけなのです。とほほ。
しかも外耳道の長さは個人差があるでしょうから、どこにピークが出来るのかサッパリ分からないと思われ。

【グラフ2】測定時に発生する気柱共鳴の例

俺測定では、3つの共鳴が確認できる。(9.3kHz、13kHz、16kHz)
【グラフ1】により、第一の共鳴9.3kHzから、概ねL=18mm程度の両端閉管の共鳴に相当した測定であったことが分かりましょう。
(実際に、トリプルフランジをいそれなりに深く外耳道へ挿しこんでいる状況を想定して測定しています。)
ただし、第二、第三の共鳴は、単純な両端閉管の理論式f2=f1x2、f3=f1x3とはなっていない

この理由は、良く分かりません(笑)。となたか教えてプリーズ。


ということで、結論!
カナル型イヤホンの周波数特性について、
自分で測定したり、他人の測定結果を見る場合は、
7〜8kHzから上の周波数は信頼性が極端に落ちることを念頭に置くべし、です。
(というか原理的には一致しないです)



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