ジッタースペクトルってどう解釈すればいいのさ?の巻き
(2011/5/15)
Stereophileなんかで、DACやらCDプレイヤーやらのジッタースペクトルのグラフが載っていたりしますが、
「あれってさー・・・役に立つのん?」という疑問がある方もおりましょう。
今回、純音に任意の周期性ジッターを負荷するシミュレーションソフトを移植してみましたので(※1参考文献)、
動作確認のついてでに、何となく雰囲気が分かる程度にジッタースペクトルの解釈について説明をデッチ上げてみる。
まあ、なんとなくわかれば良し!
(※1参考文献) |
(1)ジッターが発生すると、スペクトルはどうなるのん?
ジッターが発生すれば、当然元ファイルの波形データから波形が崩れるので、歪みが発生します。
この歪みはWaveSpectraなどのFFTを使えば簡単に観測できます。
(A)<シミュレーション>
11025Hzの純音(0dBFS)に、
最大10nsecの時間振幅(時間のズレに1kHzの周期性あり)のジッターを加えたスペクトル。
はい。みなさん予想の通り、入力信号から±1kHz離れた位置に、位相雑音成分のピークがハッキリ現れています。
(B)<シミュレーション>
4000Hzの純音(0dBFS)に、
最大10nsecの時間振幅(時間のズレに1kHzの周期性あり)のジッターを加えたスペクトル。
加えるジッターの量や周期性は(A)と同じですが、入力信号の周波数を11025Hzから4000Hzへ下げています。
(A)と(B)は同じジッターを加えているのに、
入力信号の周波数によって、位相雑音成分の大きさが異なっていることが分かるかと思います。
入力信号の周波数が高いほどジッターの影響により大きく歪む、という当然の結果を表しています。
(考えてみれば当然ですよね)
次に、(A)を少しいじって、こんどはジッターの周期性を1kHzから10kHzに変えてみてみましょ〜。
(C)<シミュレーション>
11025Hzの純音(0dBFS)に、
最大10nsecの時間振幅(時間のズレに10kHzの周期性あり)のジッターを加えたスペクトル。
(A)のスペクトルと比較すると、入力信号から10kHz離れるようになりましたが、位相雑音の大きさ自体は変化していません。
それでは、入力信号の周波数(0dBFS時)と、ジッターの時間最大振幅の関係はどうなっているんでしょうか?
(D)<シミュレーション>ジッターの量(最大時間振幅)に起因する位相歪みの発生量
【注意:-110dB以下は演算誤差により精度ありません。】
このグラフは、100nsec、10nsec、1nsec、100psecのジッターが加えられた場合、
周波数帯域によって信号がどれだけ歪むか?を表しています。
たとえば、上から2本目の10nsec(ピンク色)のジッターの場合を見てみると、
10000Hz(10kHz)の信号で-70dBほどの歪みが発生するであろうことがわかります。
1kHzなら-90dBです。
100psecのジッターともなると、20Hz〜20kHzの全オーディオ帯域で-100dBを下回っており、
ジッターを位相雑音として知覚しているのであれば、まずもって問題のない量だと思います。
その他、 パッと見の規則性として
・ジッター時間振幅が1桁下がると、全体にPhaseNoiseは20dB低下する。
・周波数が2倍になると、6dB PhaseNoiseが増える。(両対数のグラフにすると直線になりますね。これは。)
・・などがありますねん。
(2)人間の知覚の限界はどのくらい?
ABX実験を行った結果(※2参考文献)によると、人間のジッターの知覚の閾値は、
・純音で、10nsec程度。
・楽曲再生時で、30nsec〜300nsec程度。
とのことですから、まあ安全を見て10nsec未満であればよろしいのではないかと。(純音メインを多く聴く人もあんまりいないでしょうけど)
(※2参考文献) "Theoretical and Audible Effects of Jitter on Digital Audio Quality",Eric Benjamin and Benjamin Gannon, September 1998 |
(E)<シミュレーション>知覚可能/不可能なジッター量はこんな感じかな?
Stereophile式の11025Hzの入力信号の場合、ざっくり-70dB以下の位相ノイズのピークであれば、
まず人間の知覚はできないはずなので問題ないのではないか・・と思います。
(3)現在の機器ではジッターはどんなもん?
例えばiPod classicなどの安価なDAPにおいて、
11025Hzの入力信号を観測しても-100dBを上回るような大きな位相ノイズのスペクトルは存在しません。
(F)<実測値>
ipod classicでStereophile式というかFIDELIX式のジッター解析信号(11025+230Hz)を測定した例。
元ファイルでわざと印加している230Hz矩形波の高調波成分のピーク(これはピークが観測されるのが正しい)以外には、
-120dB弱のノイズフロアより上に目立った大きなピークはないようです。
(上のグラフからザックリ換算すると、せいぜいでも数十psec程度のジッターと思われます)。
(2)で一応の目安とした「11025Hzで-70dB以下」は50dBも余裕を持ってクリアできていますから、
まずジッターの知覚は無理でないの?って思います。
最後に、以上の結果から適当なまとめをしてみます。
【まとめと俺感想】 @人間の知覚限度は、純音でもせいぜい10nsecくらい・・・らしいよ。 A現在の安価なDAPでも余裕で数十psec。@の人間の限界に比べてもジッターは既に2ケタ以上も低い。 据え置きのDACなら10psec程度。もうジッターについてはお腹一杯で数字のお遊びの状況ではないかと思います。 Bそれでもジッターが気になる場合、最終出口であるLINEかPHONEアウトのジッタースペクトルを観測しましょう。 良いDACでも熱雑音もあるでしょうからノイズフロアは実測で-140dB程度と思われます。 つまりジッター換算で1psec程度の雑音は残っていることになりますから、安価なDAPと比べても 出口ではせいぜい1桁程度の御利益しかないってことではないでしょうか。 |
以上
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